2025.01.27

阿部慎之助監督が心がける
チームへの「目配り・気配り・思いやり」

2025年の初回は、昨年、就任1年目にしてチームをリーグ優勝に導いた読売巨人軍の阿部慎之助一軍監督をお招きし、現役引退後の体調管理や休日の過ごし方などを中心に伺います。また、監督は自らコンペを主宰するほどのゴルフ好きとしても知られており、ゴルフに対する思いや、捕手出身監督ならではのチームへの気遣い方法などもお話しいただきました。

阿部慎之助さん

1979年3月20日生まれ。千葉県浦安市出身。父の影響で野球を始める。中央大学時代に東都大学野球連盟で活躍し、2000年にドラフト1位(逆指名)で読売巨人軍に入団。翌年の開幕戦に山倉和博以来23年ぶりとなる新人捕手開幕スタメンとして先発出場。2003年には捕手として球団史上初となるシーズン30本塁打を、2009年には通算200本塁打を達成。同年にWBC優勝を経験。2010年には捕手では野村克也・田淵幸一に次ぐ史上3人目のシーズン40本塁打達成するなど数々の記録を残す。2019年に引退。二軍監督などを経て2024年に捕手出身者として初の巨人軍一軍監督に就任。4年ぶり39回目の優勝へと導いた。

以前から真名カントリーをご利用いただいているそうで、嬉しいかぎりです。

ゲーリー(真名ゲーリー・プレイヤーコース/全18ホール)はぜんぶのコースにカートで入れるのが魅力だし、真名カントリーは3コース(真名コース/全27ホール)あるので面白味があります。宿泊施設があるのもいいですよね。

コーチ陣慰労コンペでウォーミングアップする阿部監督。2024年12月、真名カントリークラブにて。

ありがとうございます。監督はいつ頃からゴルフをはじめられたのですか?

高校生か大学生のときに父に連れて行ってもらったのがきっかけです。いきなりコースからでしたが、プレイしてみて面白かったんでしょうね、だから今でも続けているのだと思います。確か、いちばん最初のスコアは110くらいだったと記憶しています。最近のベストは80とかですかね。

そのスコアはすごいですね! そこからずっとゴルフを続けられている?

独身の時はオフの日だけで年間50回くらいは行っていました。どんどんと上手くなって100を切り90台で回れるようになって面白くなってきた感じです。明確にスコアがでるので楽しかったですね。

でも一時、手首と首を痛めてやめた時期があって。もともと首は弱くてヘルニアが原因でキャッチャーをやめたくらいなので、本業の野球じゃなくてゴルフで痛めるなんてバカじゃないかと。それでクラブもぜんぶ人にあげてしまいました。再開したのは引退してコーチになってからです。

現役時代と今を比べると、ゴルフへのモチベーションやプレイスタイルなどに変化はありますか?

今はイイ空気吸いに行こうみたいなね、気分転換の意味が大きくなりました。プレイの仕方も、以前はドライバーでしかティーショットを打たない主義でしたが、難しいコースではアイアンを選ぶようになりました。若い頃はカッ飛ばして1ヤードでも前へ!という気持ちだったのが、今は大人のゴルフというか、ロングでもちゃんと刻んで自分の得意なヤードを残します。

僕は130~140ヤード残すのが嫌いで。ピッチングでミスしたらぜんぜん届かない132ヤードとか、9番でかるく打ったらよけいに引っかかったりするので難しいなと。その距離が残らないようにコントロールしながら打つようになりましたね。

あとは、コーチ陣と回ったりすれば選手の話になったりとか、球場で話すのとゴルフ場で話すのはちがいますから。お互いに冷静ですし、野球に対してはそういう好影響がありますよね。

野球選手のポジションによるゴルフの相性や、練習の仕方に違いなどありますか。

バッターはヘッドが開いちゃうからスライサーが多いんです。そういう意味では癖がないピッチャーの方が上手いのかもしれませんね。

練習に関しては、僕はスコアをつけないでコースをまわる“錬ラン”をしていました。ボールを何個かもって、後ろの人に迷惑にならないようにアプローチを繰り返すとか。そういう回り方をしていたら少し上達しました。

打ちっぱなしに通うのもいいと思うのですが、大抵は地面が人工芝で平らですから、クラブが滑って打ちやすいです。でもそれだと練習にならない。だから起伏のあるコースで本番さながらに練習できるのは理想ですよね。

ゴルフの他にスポーツやボディメンテナンスはされていますか?

引退して二軍監督になったときに、何もケアしてなかったら選手に対して説得力がないとランニングをはじめました。自宅や遠征先の近所を朝から10キロくらい走ります。ランニング中は思考する時間でもあるし、疲れてくれば考えずに無になれる。それが心地よい時間になっています。

シーズン中は試合の組み立てとか、そういうことを考えたり?

やはり前夜の試合のことですよね。ランニング中にぜんぶを浄化させるようにしているので、毎日、試合に新たな気持ちで臨める爽快感があります。でもキツイですよ、若いころから走るのが大嫌いでしたから。

筋トレはなさらない?

筋トレは大嫌いです(笑)。僕自身はあまり道具を使うのが好きではなくて、現役中もほぼしなかったですね。体幹を鍛える方法はいっぱいありますが、自重トレーニングで、自分の身体をどう支えるかなどを考えるのが好きなんです。

というのも、僕は人よりも関節がゆるいので、筋肉をつけて力で押し切るのではなく、体幹や軸をしっかりさせてバランスをうまくとる方が自身のプレイには有効だったんですね。柔らかさやしなやかさを鍛える方がいい。なので、膝を痛めたときなど、ウォーミングアップや予備運動といった部分でしか道具は使わないです。

大柄でいらっしゃるせいかパワーで持っていくイメージだったので意外です。今は筋トレを重視する傾向がありますが、選手にはどのようなアドバイスを?

選手のボディメンテナンスについてはトレーニングコーチに託していますし、健康管理は医療・コンデショニングチームのような専門家にお任せしています。プロなんでね、選手自身が必要と感じるなら取り入れればいいし、不必要ならやらなければいいと思います。僕的には、しっかり守って、打ってくれればいいので(笑)。

ちなみに監督自身は、今、ランニングで意識的にカラダを絞られてますか?

現役を終えてから14キロくらい落としています。いわゆる成人病的な数値がぜんぶよくなりました。体重維持のため炭水化物を控えるなど、食べたい気持ちを抑えて節制していますよ。今の方がよほど健康管理していますね(笑)。

現役のときの方がそういった数値はいいイメージがありますが(笑)

なにせ暴飲暴食の大酒ぐらいだったので。週に4~5回は焼肉を食べに行っていました。いちど現役中にドーンと体重を落としてコントロールした時期があったのですが、打球が飛ばなくなりました。

シーズンが長くてナイターもある野球はカロリー消費が半端ないんです。まず、試合前の練習で大汗をかいて大量のカロリーを消費します。そこからアドレナリン全開で試合に出れば、もっと消費しますから、どうしても食べないとスタミナがもたない。いろいろな選手を見てきましたが、早く現役を終える選手は食が細い傾向があります。選手には、太く長く野球界にいて欲しいのでパワーを身に付けて欲しい。

だから若い選手には、とにかく食べろといいます。二軍監督のときは食べているかどうかチェックしていたくらいですから。もちろん栄養価に関しては専門チームが厳しく管理しています。でも、大きくならない選手もいるじゃないですか。

だから、お世話になっている馴染みの栄養士さんには、食が細い子に対して「もっとカロリーのあるものを食べさせてほしい」とお願いしたり、僕自身も選手の丼ぶりにおかずをドーン入れて「食え!」みたいに指導をしたり(笑)。食事の量を増やすのも鍛錬のひとつですから。

監督自ら指導をされるとは意外です。

そういう部分では“昭和感”を出していこうと思っています。僕ね、監督を引き受けるにあたり、決め事としてコーチ陣に10カ条のようなものを渡したんです。内容は、球団をあげてもっと対話をしていこうといった感じで。

例えば、今風に言うと選手をディスらないとか、自分たちが思っているよりも選手たちは自分たちをみているよ、とか。名指しでマスコミとかに選手のことを話すなとか。技術を教えるだけでなく、前向きな言葉をかけて、翌日に引きずらないように選手のメンタルケアを心がけるとか。

それは、良い意味での昭和感と令和の常識のハイブリットのような気がします。

そうですね。それをなんとか僕のなかで融合して使い分けていくのが大事だと、二軍監督時代に学んだので。1年目は怒鳴り散らしてザ・昭和で行ったら選手がさーと引いていった。でも1年は続けました。おもいきり批判されましたが。2年目は一切、何も言いませんでした。そうしたら選手が来てくれるようになったので、これを使い分ける必要があるなと。

お陰様でキャンプを見学にきたOBや関係者の方から「チームの雰囲気が変わったね」と言われるようになって嬉しかったですね。まったくのオリジナルの接し方でしたが、監督になったからには自分の信念を貫こうかなと思っています。

巨人の監督って、どうしても他の球団の監督よりも注目されますよね。

やりがいは感じます。孤独だと言う方もいらっしゃいますが、多分、それは自ら孤独になっているのだと思うことにしています。独特のプレッシャーはありますよ、でも、若いころから、叩かれたり、新聞に酷い内容を書かれたり、そういうのを経験してタフになっていきましたよね。あとは、ゴルフで発散かな(笑)。

若手の選手と飲みに行ったりゴルフをしたり、ご自身から誘うことはありますか。

ないですね。誘ってくれれば行きますが自ら誘うことはしません。それが若い選手と良い距離感を保ち、上手く接するコツだと思います。俺が監督だ!という風にはしたくないんですね。

世にでる時は監督然とするべきですが、球場にいるときは、球場内をウロウロして、いろんな選手やスタッフとしゃべります。監督がバッテイングのゲージの後ろで立っている風景をよく見ると思うのですが、僕の場合はそれでは何も見えてこないのでね。

捕手はチーム全体を眺めたりするポジションですが、それが監督業に活かされていますか?

あると思います。キャッチャーのときに心がけていたのが「目配り・気配り・思いやり」なんで、今もそのままするようにしています。昨シーズンのリーグ優勝は選手が頑張った証です。選手が苦しんで、苦しんで、苦しんで、つかみ取った勝利ですから。ほんとに僕も、何度、代打に出たいと思ったことか(笑)。


自らの性格をザ・昭和と話す阿部監督。「コーチ陣への10カ条」や球場での選手やスタッフとの接し方など、細やかな対話と周囲の人々との関係を大切にする姿は良き昭和の伝統を感じます。一方で、選手のプライベートには踏み込まず、ちょうどいい距離感を保とうという配慮は令和感でしょうか。監督が選手時代から心がけてきた “目配り・気配り・思いやり”は、今シーズンもきっと、チームを躍進へと導くことでしょう。

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