2022.02.10
カルチャー
市原市を南北に流れる養老川沿いには、約77万年前に最後に起きた「地磁気の逆転現象」の記録がある貴重な地層が残されています。地磁気逆転現象とは地球が持つ地磁気のN極とS極がなんらかの理由で数万〜数十万年ごとに反転する現象です。
この時代(約77万年前~12万9千年前/新生代第四紀更新世中期)は、ながらく固有の名称のない空白の時代でしたが、この「地磁気逆転の地層」による境目が決め手となり、2020年1月に国際地質科学連合の承認を得て“チバの時代”を意味する「チバニアン期」と命名。地球の歴史を区切る「地質年代」に初めて日本の地名がつたことは記憶に新しいところです。
この、チバニアン期の由来となった「地磁気逆転の地層」を含む「養老田淵セクション」は、地球45億年の歴史においてはかなり新しい時代(といっても77万年前!)の深海の地層です。水深500~1,000m級の深海が地上に露出したもので、目の前で見られる場所は世界的にも珍しいことです。
これは房総沖で3つのプレートが交わり、激しい地殻変動が起きた影響によるもので、特に太平洋プレートの日本海溝への沈み込みに伴う北西-南東方向の強い圧縮は、深さ1,000m級の海底を100万年(年2~3㎜)という速さで隆起させました。
深海の地層は、地上の気候の影響を受けにくく海底で世界中と繋がっているために時代の記録が安定したかたちで残りやすい特徴があります。加えて、養老田淵一帯の地層は堆積スピードが速く、通常は1,000年で1~10㎝のところ2mもの厚みがあり、化石による時代のデータや地磁気逆転を示す地中に含まれた磁鉄鉱の磁気の方向を解析しやすいこと。そして、地層には77万年前に長野県と岐阜県の境にあった「古期御嶽山」の噴火で堆積した「白尾火山灰層」がはさまれており、これが時代境界の明白な目印となるなど、好条件が重なりチバニアン期の誕生につながりました。
千葉県には「養老田淵セクション」以外にも千葉県教育委員会が選定した「千葉の地層10選」をはじめ、2億5,000万年前(中生代三畳紀)~1万年前(完新世)にいたる各年代の地層の有名スポットが数多くあり、その重なりの美しさと地層がおりなす絶景を眺めることができます。
例えば、銚子市犬岩から旭市刑部岬まで10㎞にわたって続く「屏風ヶ浦」。約300万年前~30万年前に沖合の深海で堆積したもので「犬吠層群」と呼ばれています。
千葉県北部から茨城県南部あたりに広がる「木下貝層(きおろしかいそう)」は約12万年前のもの。当時、関東平野は「古東京湾」と呼ばれる内海で、その海底に集められた貝殻が積み重なり化石層となりました。遠い昔ここが海底だったことを想うと、壮大な時の流れの一瞬を生きていることが不思議に思えてきます。
「千葉の地層10選」からは漏れていますが、君津市市宿の「市宿層」は、「千葉県立中央博物館」の上席研究員で地質学が専門の高橋直樹博士が推薦する地層。映画のようなワイルドな絶景が堪能できます。
さらに、国の天然記念物で1億3,000万年前~1億年前の中生代白亜紀の海底地層が観察できる犬吠埼灯台下の「白亜紀浅海堆積物」などレアなスポットがたくさんあり、これら地層めぐりをしながらのドライブやサイクリングがおすすめです。
ちなみに千葉県内に湧く温泉は、このようなかつて深海だった地層に閉じ込められた「化石海水」が主で、古代の海藻やアシといった植物が分解し溶け込んだ黄褐色~黒色の温泉を楽しむことができます。
専門的な知識がなくてもじゅうぶんに絶景も温泉も楽しめますが、知ればなおいっそう奥深いもの。事前に「千葉県立中央博物館」に立ち寄って千葉の歴史や地層について知っておくのもおすすめです。
千葉県立中央博物館
千葉市中央区青葉町955-2
http://www2.chiba-muse.or.jp/NATURAL/