2022.03.31
カルチャー
「大山千枚田」を目指し、鴨川市から車を20分ほど西へ走らせると嶺岡山系の山中に広がる「鴨川自然王国」(千葉県鴨川市大山平塚乙)にたどり着くことができます。
学生運動家であり有機農法実践家、「大地を守る会」初代会長の故藤本敏夫さんが1981年に設立した食と農を中心とする自然共生型農園で、現在は、藤本さんの次女で歌手のYaeさんご夫妻が中心となって循環型農業を実践しています。
敷地内には王国で採れた野菜や米、麦などを使ったランチやスイーツが楽しめる「Café En(カフェ・エン)」があり、繁忙期の休日ともなると1日に20~30組が訪れるそうです。店内には藤本さんの記念館が併設されており、著書や蔵書などを見学できます。
現在、「鴨川自然王国」ではサポーター制度を取り入れており、年間1万円の会費で自家製の米5キロや大豆、味噌、醤油、うどんなどがもらえる他、カフェの割引特典がついてきます。田植えや農業体験などのイベントは、サポーター関係なく誰でも参加できるそうで、春と秋に行われる収穫祭では、Yaeさんの母親で歌手の加藤登紀子さんも参加し、食べたり飲んだり、一緒にステージで歌ったりと収穫の恵みを祝うそうです。
山菜、野菜、麦、米、ジビエ肉、自家製の麹、味噌、醤油…王国には暮らしに必要な何もかもが揃っています。キレイな地下水にも恵まれており、カフェ以外で使う生活用水はすべて井戸水を利用しています。「暖房は薪ストーブがあるし、米の備蓄もあるので災害時にはシェルターとして機能しますよ」とYaeさん。畑のソーラーシェアリングも計画中だそうです。
Yae「今、古民家を再生させているのですが、茅葺に利用するススキなど材料は簡単に手に入るものばかり。自然循環型の生活とはなにか?実践すると色々なことがわかります。先人の知恵というか、昔の人の生活には無駄なものが一切ないんです」
それは、まさに日本人が古来より営んできた、自然と人が共生する持続可能な生活といえます。王国の設立者である藤本さんは、今でいうところのSDGs活動をかかげ実践した先駆者です。農薬漬けの野菜が良しとされていた時代に、無農薬野菜の価値と循環型農業の大切さを訴え、都市農村の交流と実践の場としてトラスト制度を活用した「鴨川自然王国」を立ち上げました。
日本棚田百選に選ばれた「大山千枚田」も、藤本さんが発起人のひとりとなりオーナー・トラスト制度を導入。現在は、東京から一番近い棚田の里として親しまれており、NPO団体を通じて景観保全とともに農業体験の場を広く提供しています。
Yae「以前は父の影響を受けた団塊世代の方が多かったのですが、最近は20~40代の現役世代が、農作業に勤しみながらオフを過ごす“農レジャー”や“グリーン・ツーリズム”といった目的で王国や棚田を訪れるようになりました」
本来、機械の入らない棚田は管理や維持が難しいものですが、そういった苦労や面倒を楽しむことで新しい豊かさを求める、都市農業的な価値観が広がりつつあるようです。
都会の公園のようにお金を払わなくても森で遊べる環境が新鮮で、幼い頃から王国に来るのが楽しみだったと語るYaeさん。犬を放し飼いにしたり蛇を振り回したり(!)里山ライフを満喫していたそうです。
Yaeさんは2006年に王国内に完全移住。毎月数回のライブやコンサートを行いながら半農半歌手として活動しており、Yaeさんのような“半農半X”なライフスタイルに共感し千葉に移住を考える人も増えています。
Yae「特に生産者にならなくてもいいんです。流通にのらない市民農園や家庭菜園など、小さな単位でも増えていけば日本の“オーガニック度”はあがりますよね。農業とアートを一緒に楽しんでもいい、大切なのは自然と共生する気持ちをブームで終わらせないことだと思います」
鴨川自然大国では誰でも自然体験ができるイベントが毎月開催されています。参加希望の方は下記メールにてお問い合わせ下さい。kingdom@viola.ocn.ne.jp
【4月~5月のイベント】
鴨川自然大国
千葉県鴨川市大山平塚乙2-732-2
http://www.k-sizenohkoku.com/