2024.09.02

捨てられてしまう梨に新たな価値を。
船橋市「芳蔵園」が挑む多様性農業

カルチャー / グルメ

関東ローム層が広がる県北一帯は、落花生をはじめさまざまな野菜や果物の名産地。船橋市の非公認キャラクター“ふなっしー”の活躍もあり一躍有名になった「船橋市のなし」もそのひとつです。

もとはニンジンなど野菜中心だった同市ですが、昭和35年に生産者が主体となり「船橋市果樹研究会」を発足させたことで梨づくりが定着。平成26年には地域団体商標を獲得し、船橋ブランドの梨が広く知られるようになりました。

そんな全国トップクラスをほこる梨の産地で、さまざまな角度から作物のフードロス課題に取り組んでいるのが、梨を中心とした果樹園を営む「芳蔵園(よしぞうえん)」(千葉県船橋市二和東)の加納慶太さんです。

「芳蔵園(よしぞうえん)」の6代目、加納慶太さん。


加工品に挑戦したのはロスを減らすため

加納「梨のシャーベット、ジャム、ドライフルーツ、ジュース、シロップ…おススメはドライフルーツかな。面白いでしょう? これが美味しいんですよ。梨を梨のジュースで煮ると無添加で砂糖不使用なのに、しっとりとしたドライフルーツができるんです」

約6,000坪の梨園に隣接する「From Farm cafe(フロムファームカフェ)」には、芳蔵園で採れた梨からつくられた商品を中心に、船橋産の果物やチーズなどの食材が並びます。

加納「うちは明治期からの農家で僕は6代目。以前は野菜がメインでしたが祖父の代から梨栽培に切り替えて65年くらいになります。祖父母にとって初の内孫だったので自然と跡継ぎとして育てられた感じでしたが、僕自身、梨農家が楽しくて」

梨は大まかに「幸水」系の甘みが強い品種と「豊水」系の酸味がある品種とに分かれ、収穫時期の早い幸水は3日、豊水でも1週間くらいが食べ頃になります。収穫時期が遅い品種であれば常温で1ヶ月、冷蔵後に入れれば2ヶ月くらいもつそうで、夏のあいだに様々な品種を楽しめます。

植えられている品種は、幸水、豊水、秀玉、かおり、新高、にっこり、あたご、など。
サイズの大きい木であれば、ひとつに500~600個くらいの実をつける。

周辺地域の市川市や白井市では江戸時代から梨づくりが盛んで、今でも市川市の大町梨街道沿いには50ほどの梨農家が軒を連ねています。船橋市内にも100軒ほどあるという梨農家ですが、加工品やカフェなどにも携わっているのは芳蔵園だけだそうです。

加納「梨は加工が難しい果物で、桃やイチゴに比べて風味がわかりにくい。梨の美味しさって瑞々しさと食感ですから。結果、そのまま食べるのがいちばん美味しいとなってしまう」

さらに、販売期間が8~9月と短い梨は、収穫から加工までに1ヶ月かけると店頭に並ぶころには旬が過ぎてしまう難しさもかかえます。それでも、加納さんが加工品に挑戦する理由は“ロス”。1年かけてつくった梨を捨ててしまう違和感からです。

加納「梨には蜜症といって果肉の一部が水浸状になる成長不良があります。食べられるけれど商品にはならないので収穫時に捨てしまうんですが、その梨が果樹園にまるで絨毯のように広がるのを見て、なぜ捨てるのか聞いても「そういうものだから」という答えしかもらえなくて」

たまたま大学でマネージメントや在庫管理、加工などの六次産業を学んだという加納さんは、捨ててしまう梨を活用した製品づくりと販売に挑戦。2021年には加納さんの妻 智恵さんによるフルーツサンドのキッチンカー、そして昨年11月には直売所をカフェとしてオープンさせました。

カフェ「From Farm café」。梨が旬の夏季には梨の直売所となり、カフェは一旦、休業になる。

まるで船橋市のアンテナショップのような店内。船橋の美味しいものに出会える。

加納「はじめは日持ちするからという理由でシャーベットに挑戦したのですが、冷凍だから保存や配送にコストがかかると後から気が付いて。試行錯誤の末、今のカタチにたどりついた感じです。カフェのメニューは地元の食材を活かしたもので、うちにくれば船橋のいろいろな美味しいものを食べられるよ、みたいなね」

食べ応えあり!特製「From Farmスパイスカレー」。

サクサクふわふわ、「船橋スキレットパンケーキ」。船橋産の食材でつくられた名物メニュー。

収穫と販売が重なる繁忙期はカフェを一旦休業し、代わりに梨の直売所と旬の「梨のかき氷」が登場。カット梨が入った特製シロップと氷との爽やかな甘さが大評判で、かき氷と一緒に梨を購入するお客様も増えたそうです。

夏季限定、「芳蔵園」の梨の直売所。

キッチンカー「From Farm」。
コロナ禍の2021年にはじめた「青空カフェ」では、キッチンカーで購入したフードやドリンクを農園内で楽しめるようにして大好評を得た。

かき氷を始めるのは7月下旬くらいから。
梨のシロップは、船橋のフルーツカクテルバー「Bar 篠崎」のマスターの調合によるもの。

加納「自然が相手ですから台風や害虫をはじめ毎年、何かしらの被害はあります。僕が就農してから9回の収穫を迎えていますが、豊作で梨がフルで獲れたのは1年だけです」

特に2020年は大きな長雨により豊水に蜜症が大発生し、生産量の半分を廃棄せざる負えない状況に。そこで加納さんがクラウドファンデングで支援を募ったところ、わずか1~2日で目標を達成し、思った以上にフードロスについて世間の関心が高いことを感じたといいます。


1次産業が身近な都会「船橋市」の魅力を発信

加納「農園体験を通して果物の成長を知ってもらい、親しみを持ってもらえれば、それがフードロス削減に繋がるかも知れないと思っています。うちでは梨の摘果、袋掛け、収穫を1年通して経験してもらう農園体験を行っていますが、自社農園以外にもそういった体験ができる「ベジとるとる」を主催しているんです」

2021年にスタートした「ベジとるとる」は、加納さん夫妻が中心となって船橋市内の農園や農家、酪農家と共同で行う子供向けの体験型イベント。野菜や果物の収穫をはじめ、牧場での牛の乳しぼりやブラッシング、チーズ作り、田植えなどの体験を通じて、東京近郊に位置しながら、都市と自然とが調和した船橋市ならではの魅力を伝えています。

加納「生産者にとっては、作ったものをより多く買ってくれて、ロスになりそうな商品を売ってくれる場があれば有難いわけで、そういった商品を農園カフェなら販売することができます。将来的には、生産者にも消費者にも嬉しい「道の駅」のようなコミュニティステーションをつくれたらいいなと思います」

また、高齢化や核家族化が進むなか、少しでも農家を長くやる方法を模索していきたいと、農業と福祉との連携にも力を入れています。

加納「障害のある方の活躍の場を広げること、農家の働き手が増えること。人と人とが繋がってうまく循環していくことで、農家がひいては船橋が活気づいて欲しい。それが産地を守るということにもつながりますから」

最後に「結局のところ、僕は船橋が大好きですから(笑)」と加納さん。その屈託のない笑顔と地元を愛する気持ちが人と人を繋げ、美味しい梨を育て届けています。


芳蔵園
千葉県船橋市二和東2丁目7-7

https://74yoshizoen.com/

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